ジュン×水銀燈

「きっと、アリスにもなれない……」

 自分の存在を否定するのに等しい言葉。
 でも、その声に失意や悲愴さは感じられない。

「だけど、不安も孤独も絶望も、不思議と薄れてしまったわ……」

 寧ろ、深い安らぎに満ちていると思った。
 それから少し間を置いて、水銀燈は「長いゲームも終わったのねぇ……」と呟く。
 ……それって、つまり。

「それって、もう真紅と戦わなくても良いって事か!?」
「……そうなるわねぇ」
「だったらその、真紅達と……」
「仲直りしてほしいぉ?」
「うん……それで、もし良かったら、暫く此処で……その」
 暮らさないか、と言う前に、水銀燈は艶っぽく微笑むと、

「あらぁ、責任でも取ってくれるのかしらぁ?」

 と言った。

「え!? いや、僕はその……」
「最初は痛いだけだったけどぉ、最後は悪くなかったわぁ」
 水銀燈はどもる僕を揶揄してクスクスと笑う。
「こ、この……からかうなよ」
「……いいわ」

 不意に笑うのを止め、真面目な顔で答えた。
 頬が少し赤いのは、風呂の中だからという訳じゃない気がする。

「私を、幸せにして……」
「……うん」

 僕等は向かい合い、
 どちらからでもなく顔を近づけ、

 唇を重ねた。


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