ジュン×水銀燈

「ねえ……人間」

 湯船の中、僕の腕に抱かれていたドールが不意に口を開く。

「……ん、どうした?」
 僕に犯された後、身体の汚れを落とし、抱いたまま湯に浸かっても、水銀燈は口一つ利かずにいた。
 それがやっと重苦しい沈黙を破って、僕に話しかけてくれる。
 結構、嬉しかった。

「私……アリスになる事ばかり考えていたわ……」
 此処では無い何処かに思いを馳せるような、遠い目をして呟く。
「でも、アリスゲームは……叶うかどうかも解らない夢は、独り戦う不安と孤独に満ち……」
 哀しげなその声は、僕の胸の奥に浸透して、
「私を、追い詰めていった……」
 棘みたいに刺す、そんな感触を残した。
 ……姉妹同士が傷付けあい、奪い合うアリスゲーム。
 ローゼン……父親が、何故……そんな惨い運命を。


『でも、今は開放された気分よ』


「え……?」
 僕は言っている意味が解らず、次に言い出す言葉が見付からない。
 そんな、僕の胸に頭を凭せ掛けて、水銀燈は続ける。


「貴方とこんな風になって、もう乙女とは呼べない」


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