ジュン×翠星石

翠星石は暖かい日差しが差す縁側に腰掛けていた。
庭に投げ出した両足を軽く振り、飽きることなく青い空を見上げている。
時折吹く風に、栗色の長い髪は楽しそうになびく。
「今日もいい天気ですよ、蒼星石」
彼女は小さく呟いて、ゆっくりと視線を下ろした。
そこにあるのは綺麗な赤色が映える薔薇の花壇。あの時、薔薇屋敷から数本持ち帰らせてもらい、翠星石が育てたものだ。
「私は……今、とっても幸せです」
 少し照れたように斜め下に顔を向ける。
「真紅がいて、雛苺がいて、のりがいて、そして……」
 一旦言葉を切って、彼女はほんのりと顔を赤らめて微笑んだ。
「人を想うって、幸せなことですよ……」
 頷くように、風に揺れる薔薇達。
彼の傍にいるだけで胸が高鳴り心地よい感覚が胸を満たす。
彼が他のドールや巴と話しているを見ると、胸が苦しくて自分を抑えられなくなる。
全てが初めて経験する感情。戸惑う暇もなく、それらの感情は日に日に大きくなるばかりである。
そう、彼女は恋をしていた。
「私はジュンのことが……」
 そしてそれは、二度と戻らぬ過去の情景――


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