ジュン×翠星石

「ジュ…ン…」
 翠星石の声は震えていた。自然と溢れ出す涙は、一筋の雫となって頬をつたう。
首を絞めるジュンの手に、彼女の繊細な手が優しく添えられた。
「好き…です……私は…誰よりも…ジュンのことを……」 
 ジュンの黒い瞳が大きく見開かれ、首を絞めていた手の力が緩まっていく。
そして彼は、その手を翠星石の首からゆっくりと離した。
「僕の…ことを…?」
しばらく呆然と立ち尽くしていたジュンであったが、やがて彼の肩が震え始めた。それが笑いによる震えだということに、翠星石はしばらく気がつかなかった。
「ふふふ…そうか…僕のことをね…」
 呼吸に合わせて乾いた笑いを洩らすジュン。
何が可笑しいのか分からず、不思議そうにジュンを見上げている翠星石。
真紅という心の支柱を失ったとき、すでに桜田ジュンは死んでいたのかもしれない。
狂いはじめた一人と、それに翻弄される一体。
昔のような日常が戻ってくることは、恐らく二度とない。
「だったらさ……」


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