真紅×水銀燈

9.
そして、ようやく身体を起こすと、とどめの一言を投げつける。
「じゃあ、さようなら、水銀燈。
 誰にも愛されたことのない、可哀想な、私の姉妹・・・」
 淑女らしいしとやかな歩みで静かに立ち去りかけ、ふと懐中時計を取り出して、目を剥く真紅。
いまだに照明役に徹していたホーリエを蹴り飛ばすと、力強いストライドでかけ去ってしまった。

 地面に両手を付いて、ぼろぼろと大粒の涙を流していたせいで、そのシーンは見ずに済んだ水銀燈。
「ああ・・・おとう・・・さま・・・
 なんで・・・・
 わたしは・・・だれもよりも・・・・おとうさま・・を・・・・」
 透明な涙が、宝石のように流れ落ち、地面に吸い込まれていく。
 慰めるように、ちかちかと瞬いて周囲を巡るメイメイが、不意に、思い切り握りつぶされた。
「しっ・・・・
 しぃんくゥウウウウウウ!!!」
 すさまじいまでの嫉妬に、その瞳が、激しく、冷たい光を放っていた。

「・・・・なんだろ?」
 不意に襲われた悪寒に、背筋を振るわせる桜田ジュン。
「・・・ちょっと、あまり動かないで。せっかくの紅茶がこぼれるわ。」
「だから、なんで、わざわざ膝の上で・・・・」
「あらあらぁ、真紅ちゃんったら、甘えん坊さんなのねぇ。」
「ああーん、ヒナも、ヒナもぉ!!」
「ふん、チビ人間に抱き上げられて、何が楽しいのか、さっぱりわからんですぅ。
 理解不能ですぅ!」


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