真紅×水銀燈
8.
「な、何言ってるのぉぉぉ!!!」
あっさり自分の存在意義を否定する真紅に、絶叫する水銀燈。
「だから、その、私を愛してやまない下僕のために、彼が整えてくれるおやつの時間は、
貴女を壊してあげることなんかより、ずっとずっと大切なの。」
そして、水銀燈を見下ろして、冷たく勝ち誇る。
「ジュンは・・・まだまだ未熟な少年だけれど。でも、その愛情の深さには、こたえてあげなくてはね。
今日のおやつは、ジュンが焼いてくれたマドレーヌと、ジュンが入れてくれたアールグレイ。
私のために、私だけのために、用意してくれるのだもの。」
あっさりと他の三人の姉妹を無視する真紅。しかも、そうしないと、毎晩、呪いの人形よろしく、
ベッドに入ったジュンを無表情ににらみ続けて嫌がらせをするのであるが。
「ジュンは、私を膝の上に抱き上げて、その手で、私に取り分けてくれるのだわ。
私の肌への渇望を、必死に抑えながら・・・」
地面に両手をついた姿勢の水銀燈のうえにかがみ込んで、追い打ちをかける真紅。
「その後は・・・優しい手で、私のこの髪を、丁寧に、丁寧に梳ってくれるの。
私があまりの心地よさに、まどろんでいると・・・自分の寝台に、そっと寝かせてくれたわ・・・」
耳をふさぐことすら許さずに、続けられる声。
「そして・・・私の寝顔を見つめて・・・その想いに耐えきれなくなって・・・それでも、必死に押さえ込んで、
私の唇に、ほんの少しだけキスをして・・・私を守るように、寄り添って、一緒にまどろむの・・・
ふふふ、寝顔は、本当に、無邪気で、綺麗なのだわ。」
これも、昼寝をしているジュンの足下から匍匐前進で進入して、その寝顔を淑女らしからぬ
執拗さで鑑賞し、我慢出来ずにキスをかましたところで相手が起きかけたので、ネジが切れたフリをして
ごまかしたのであるが。
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