真紅×水銀燈

5.
(ジュン・・・たまには、肌をふいて頂戴。淑女は、肌の手入れも欠かさないものだわ。)
(なっ、なんだよ!服着ろよ!)
(のりが、服を洗濯してくれたのだわ。お風呂にもはいっていらっしゃいって・・・)
(じゃあ風呂いけよ!)
(雛苺達が入っているのだわ。主人の身だしなみの手伝いも、従者の大切なつとめよ。)
(自分でやればいいだろ!)
(・・・私の球体関節は・・・背中に手が届くようには、できていないの・・・)
(わかった、わかったよ!)
(そう、良い子ね、ジュン・・・)
(背中だけだぞ・・・)
(そう、お湯を良くしぼって・・・優しくね。乙女の肌は、とても繊細なのだから・・・)
(・・・こ、こうで、いいのか?)
(ああ・・・そう・・・とても、とても良いわ・・・ジュン、もっと、そう・・・ん・・・・)
(だから、変な声を出すなって!!)
 露骨な優越感を示しながら、じりじりと後退する水銀燈に詰め寄っていく真紅。
「そ、そんなこと・・・アリスになることに、比べたらぁ・・・・」
「あら。貴女は、その素晴らしさも知らないのに、比べられるの?」
 舞台役者のように、芝居がかった動作で、くるりとスカートを翻して回ってみせる真紅。
「そう・・・私達は、ドールズ・・・人間とは、結ばれるはずはないのに・・・」
 胸の前で手を組み合わせて、眼を閉じる。
「それでも・・・それでも、殿方から、愛情を受けてしまうのは・・・
 あまりに美しく、あまりに魅力的に造って頂いた、私の罪なのね・・・」
 こちらも衝突をやめた人工精霊が、照明よろしく、真紅の周囲を静かに照らす。
なぜかメイメイも一緒に手伝っていたりするが。
「そう・・・そんな殿方に愛されるのは・・・きっと、アリスに選ばれるのぐらい、
幸せで、価値があるのではないかしら・・・」


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