真紅×水銀燈

4.
(そう、もっと優しく・・・いいわ・・・)
(へ、変な声出すなよ!)
(貴方の指は、まるで、美しい戦慄をつむぐよう・・・)
(も、もういいだろ!)

 というやりとりがあるのだが、水銀燈は現場を見ていない。そこで、真紅は、唇の端をつりあげて・・・
どちらかというと、これは水銀燈の笑い方だが・・・水銀燈に、艶やかな嘲笑を向けた。

「水銀燈・・・貴女、殿方に、抱きしめてもらったことって、ある?」

 唖然としていた水銀燈に、質問の内容がしみこむまでの一瞬の後、真っ赤になって叫ぶ水銀燈。
「・・・・なっ、何を!!」
「そう、しかも・・・自分を心から慕ってくれている殿方から、かくしきれない愛情をこめて、
優しく抱きしめて、愛撫してもらったことは?」
「なっ、なっ、何・・・・!!」
「無いのね。その様子だと、ただの一度も、無いみたいだわ。」
 庭師の鋏のような鋭さで、斬って捨てる真紅。
「可愛そうな娘・・・
 あの心地よさを、知らないのね。
 自分の欲望を必死で抑えて、自分を呼ぶ殿方の声。私がそばに寄り添うだけで、高鳴る鼓動を
 抑えられない殿方の、細工物を扱うような、頬を撫でる手の優しさを。」
 思いも寄らない攻撃に、沈黙してしまう水銀燈。彼女は、一切人間とは契約せず、狂気に近い使命感と、
「お父様」への想いだけで、長い長い年月を戦い続けてきた。「真紅の言うようなこと」の経験があるはず
がないのだが・・・そう言う真紅も、当然、事実はこうである。


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