蒼星石

12月14日
朝起きてみると俺のスーツケースから服が飛び出して、ばらばらに散らばっていた。
「おい!馬鹿人形!この鞄はどうなっているんだ!」
どうやらこの鞄は空を飛ぶ力を持っているらしい。ローゼンメイデンはこれで移動するとか。
なぜか時々寝ぼけて暴走するらしい。鞄のくせに生意気極まりない。
「こんな鞄使えるか!お前に返してやる!」
俺は鞄を蹴飛ばした。
「え?じゃあ僕、これからはここで寝て良いの?マスター。」
こっちはイライラしているというのに奴ときたら喜びだしやがった。
目を見開いてこっちを見つめている。声が弾んでいる。かなり嬉しそうだ。
「痛い!痛いよマスター!やめて!やめてよ!」
俺は頭に来て、蒼星石を掴み、手足をはずしてやった。蒼星石は仰向けに倒れた。
「その代わりこれからはこれで過ごせ。」
「え?マスター。これじゃ歩けないよ。翠星石(犬の名前)とお散歩に行けないよ!」
蒼星石は俺の目をじっと見て、これは冗談だと言って欲しいと目で訴えた。
「ねえ、どうやってご飯食べるの?どうやってお花のお世話をするの?」
だんだん蒼星石の顔は青ずんでいき、声は小さくなっていった。まだ状況が上手くつかめない様子だ。
ついには黙り込んでしまった。上を向いたまま真っ青な顔で、凍り付いてしまったようだ。
「さて、朝食にするぞ。」
俺は階段を下りた。蒼星石はついてくる気配はない。上を向いたままぐったりとしている。
それにあの体では階段を下りられないだろう。蒼星石の腹の音がかすかに聞こえた。


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