ジュン×翠星石

雀達が朝の挨拶を交わすように鳴いている。
その囀りを耳にし、小さな体が微かに動いた。
目を開けると、真っ暗な鞄の隙間から淡い光が洩れている。
(朝……ですか…)
 翠星石はいまだ呆けた頭を覚醒させるために、鞄を全開にした。
突然明るくなる視界、その眩しさに慣れた目がゆっくりと窓に向けられる。
ガラス越しに見える太陽は今日も惜しみなく輝いている。
それを恨みがましそうに睨んだ後、翠星石はのりの部屋から出た。
「おはようです…」
 リビングに入るとまず真っ先に、ジュンの姿を探す。
しかし何処にも見当たらず、変わりにキッチンに立っていたのりが料理をしている手を止めてこちらに振り向いた。
「おはよう、翠星石ちゃん」
 顔は笑っているが、声に元気がない。
彼女もジュン同様、まだ立ち直れていないのだろう。
翠星石は少し戸惑いつつも訊ねてみた。
「ジュンは何処ですか?」
「ジュン君? たぶん自分のお部屋じゃないかなぁ」
「そう、ですか……」
 やっぱりそうか。
翠星石は顔を俯かせたまま、小さな声で「ありがとです」と呟いて、いつもの定位置に座った。
ジュンの隣、ここが自分の居場所。
隣の空席が酷く寂しく感じた。
「朝ごはん、もうちょっと待ってね。 もうすぐ作り終わるから」
 そう言って、のりはまた作業に戻る。
テーブルに出された皿は何故か五人分。桜田家にいるのはジュンとのり、そして翠星石の三人だけなのに。
何故?と彼女に聞くと、決まって返ってくる答えは『あの二人が、いつ帰ってきてもいいように』だ。
(帰ってくるわけ…ないです……だって真紅達は…)
出しかけた言葉を、唇をかみ締めて無理やり飲み込んだ。
「…ジュンを起こしてくるです」
「ええ、お願いね」
 込み上げてくる何かを抑え、翠星石はキッチンから逃げるようにでた。


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